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池田俊彦著・玉島茶室群研究会編『玉島湊の茶室群』刊行のご案内
2021年1月に玉島茶室群研究会の顧問であった池田俊彦先生の訃報が届きました。研究会メンバーの私たちには晴天の霹靂でした。先生を失って、その間コロナ感染症の拡大もあって長く茫然自失の状態が続きました。
「ぬばたまの 夜は明けぬらし 玉の浦に あさりする鶴(たづ)鳴き渡るなり」(巻第十五 三五九八番歌)と『万葉集』にも詠われたとされる玉島湊。源平合戦で唯一平家が勝利をえた水島合戦もこの湊のことでした。時代は下って江戸元禄期には、廻船問屋、肥料問屋、綿花問屋が軒を並べ、莫大な富が築かれた場所でもありました。繁栄をきわめた地は、京都から茶の湯文化がダイレクトに伝えられ、この地の豪商たちの間でまたたくまに広がりをみせました。茶の湯文化は、単に喫茶のみでなく、書画、和歌、謡曲や能、聞香とさまざまな文化をこの地にもたらしました。そして、温暖な気候と戦禍にあわなかった幸運で、今も多くの茶室群が残っています。池田先生から「この玉島湊の茶室群は貴重な遺構である」と教えられましたが、その貴重な茶室群も少しずつ失われようとしています。
そこで玉島茶室群研究会では、池田先生のご指導の下、この貴重な遺構を残すために、①玉島湊の茶室群の調査、研究とその成果を公開、②資源的価値の地域での共有とその活用法の企画・提案、③玉島の高い文化生活にふさわしい文化生活の創出と体験の提供の3つの目標をもって活動してきました。先生の急逝で40茶室の調査目標は叶わないものの、先生の倉敷市立美術館での講演や遊美工房での3回の茶室調査成果発表の展覧会、現代美術を飾った茶室を巡る企画等を通して②の目標までは達成しつつありました。
そして池田先生の残された貴重な茶室の調査資料を何とかよい形で残せないかと思案し、2023年春に書籍の刊行を決断し、この度、本書の上梓に至りました。この間、茶室に現代アートを飾る茶室を巡る「茶室と現代美術」展でお世話になった元東京造形大学教授・三木俊治先生にご相談し、編集者として教え子の齋藤亜紀先生をご紹介いただきました。この本をガイドブックとして全国の茶の湯文化を愛する皆様に茶室巡り体験をしていただきながら、③の目標を達成する方法を考えてみたいと思った次第です。